1:「ニュース価値の見極め」
プレスリリースの目的は、企業活動をメディアにニュースとして取り上げてもらい、ステークホルダーに広く知らせていくことです。この目的を果たすためには、情報が「報道に値する価値(ニュースバリュー)」を持っているかを見極めることが最も重要となります。
プレスリリースは、企業が自社の情報を宣伝する「広告」とは異なり、メディア関係者に宛てた公式文書です。メディアが日々送られてくる大量の情報の中から、自社のプレスリリースに目を留め、記事化するかどうかを判断するのは、その情報が持つニュースバリューの明確さにかかっています。
記者が記事を作成するための素材であるプレスリリースは、客観的な事実を正確かつ端的に記載する必要があり、単なる「お知らせ」や「カタログ情報」では反響を得られません。情報を発信する前に、「この情報が社会にとってどのような意味を持つのか」という公益性の視点で、ネタの価値を厳しく見つめ直す必要があります。
2:ニュース性とは?報道価値(新規性・社会性・意外性)
報道価値(ニュースバリュー)とは、「報道に値すると認められる、ニュースの重要性・価値」のことです。プレスリリースの効果は、このニュースバリューがメディア関係者に明確に伝わるかどうかによって左右されます。
ニュースバリューを構成する要素には、以下のようなものが挙げられます。
- 新規性・独自性・希少性:まだ他にない初めての取り組みや、「ここだけ」の試みである点です。記者は「他社と比べて特筆すべき点があるか」を重視します。
- 社会性・公益性:社会的なトレンドや課題と関連しているかどうか、情報が社会全体にとって有益であるかどうかです。SDGs関連や、問題解決に繋がるサービスなどが該当します。
- 意外性・ギャップ:一般認識とは真逆の事柄や、対立構造にあるもの、「えっ!?まさか!」と思わせるような要素です。このギャップが大きいほど、メディアや生活者の興味を惹きつけます。
- 時事性・トレンド性:流行や時流、季節に関連する情報です。社会のニーズや動向に合致した最新の情報を盛り込むことが、効果的なプレスリリースを行うコツです。
記者は、単なる企業の宣伝ではなく、「それが社会にとってどのような意味を持つのか」という公益性の視点を最も重視するため、「画期的な新製品」という主観的な熱意だけではなく、「それで、世の中の誰が、どう幸せになるのか?」という視点で情報を提示することが重要です。
3:ネタの種類一覧(型で覚える)
プレスリリースのネタは、新サービスの情報以外にも、社内外のさまざまなところに存在します。プレスリリースの内容は大きく以下の3種類に分類され、合わせて27種類のテーマが例示されています。
| ネタの種類(大分類) | 具体的なテーマの例 |
| 商品やサービス・事業 | 新商品/新サービスの発表、既存商品/サービスの実績(販売実績、ダウンロード数など)、リニューアル情報、イベントやセミナーの開催・出展、キャンペーンの実施・告知、導入事例の紹介、障害・トラブルの報告、再販・復活情報など |
| コーポレート情報 | 業務提携・事業提携の発表、資金調達、人事異動・組織変更、CSR活動・サステナビリティレポート、周年記念、株式上場・IR関連情報、危機管理・リスク対応など |
| 調査結果・研究結果 | 業界の動向・市場調査の結果、論文・研究発表、意識調査、実態調査 |
ネタを探す際は、新商品発表のみならず、開発ストーリーや特殊な福利厚生・人事制度、既存商品の口コミや売上データなども活用できます。また、ヒト、モノ、カネ、情報という4つの経営資源に注目すると、幅広い切り口が見つけやすくなります。
4:5W1H+社会性でチェックする、Why Now?(“なぜ今”が最重要)
プレスリリースで何を伝えたいかを明確にするためには、ニュースの基本要素である「5W1H」を意識して情報を整理することが効果的です。
【5W1H】
- Who(誰が):企業・団体名
- What(何を):発表する事柄(新商品、新サービスなど)
- When(いつ):日時、期間
- Where(どこで):場所、市場
- Why(なぜ):目的、背景
- How(どのように):方法、特徴
特に、本文ではリード文の内容を受けて「Why(なぜ)」の要素を詳しく展開することが求められます。なぜこの商品やサービスを開発したのか、どのような社会課題を解決するのかといった背景を深く掘り下げて記載することが重要です。記者からは、「Why」がないと記事にならないこともあるくらい重要な部分であるとされています。
「Why Now?」(なぜ今)が最重要
プレスリリースがメディアに取り上げられるかどうかは、**「なぜ今、世の中にこの情報を届ける必要があるのか」**という必然性、明確さによって決まります。
社会性や時事性を盛り込み、自社の取り組みをより大きな社会の文脈の中に位置づけることで、情報は単なる「宣伝」から「ニュース」へと昇華します。
5W1Hに加えて、「展望(Future)」や「How much(金額)」、「How many(数量)」といった具体的な数値情報を含めた5W2Hや5W3Hを意識することで、情報の客観性と具体性が高まり、ニュース価値が向上します。
5:切り口の作り方、初/唯一/季節性/社会課題、感情トリガー+メディアフック
ネタを記事化に繋げるには、読者や記者の**興味関心を惹くワード(メディアフック)**を活用し、切り口を工夫することが不可欠です。
感情トリガーとメディアフック
ネタにする内容は、人の感情が動くもの(びっくり、楽しい、幸せ、感動)かどうかが非常に重要です。プレスリリースには、この感情トリガーと、メディアフックを掛け合わせることが推奨されます。フックが多いほど話題になりやすい傾向があります。
主なメディアフックの要素には以下のようなものがあります。
- 新規性・独自性(初/唯一):「業界初」「日本初」といった表現で、他社との明確な差別化をアピールします。ただし、最上級表現を用いる際は必ず根拠の明記が必要であり、「◯◯県初」「◯◯業界初」のように範囲を狭めることで表現の独自性を出すテクニックも有効です。
- 時流・季節性:流行や季節(例:バレンタイン、GW、花粉症)に関連付けることで、ニュース価値が上がります。
- 社会課題・公益性:SDGs関連や、深刻化する高齢者の孤独、食料自給率の向上といった社会課題の解決に貢献する視点を盛り込みます。メディアは社会的に意義のある情報を届けたいと考えています。
- ギャップ(意外性):「えっ!?まさか!」と思わせる意外性や、一般認識と真逆の視点。
- 地域性:特定の地域に限定した情報(例:◯◯県初出店)は、地方メディアが取り上げやすいです。
切り口を考える際には、ヒト、モノ、カネ、情報の4つの経営資源を起点に考えるのも有効です。特に、モノを作り出した「ヒト」に焦点を当てる(例:開発者のストーリー、特殊な制度)と、ストーリー性のあるPRが可能になります。
6:ネタ出し会議の進め方、全社巻き込み、仕組み化
コンスタントな情報発信を成功させる鍵は、日常的な情報収集と社内連携による仕組み化です。ネタは「見つける」ものではなく、社内に眠っている情報資産を**「作り出す」**ものです。
ネタ出しの仕組みと全社巻き込み
- 社内情報の掘り起こし:広報PR担当者は、他部署の会議に出席するなど、社内の動きや他部署(営業、人事、開発など)とのコミュニケーションを通じて情報を掘り起こす必要があります。新製品の発表だけでなく、開発ストーリー、特殊な福利厚生や社内制度、人事制度などもネタになります。
- 既存データの活用:既に販売した商品の口コミや売上データ、お客様の声から生まれた後続商品なども重要なネタとなります。
- 外部環境のチェック:常にアンテナを高く張り、マスメディアやSNSのトレンドをチェックし、競合他社のプレスリリースや業界の動向を日常的に把握しましょう。特にSNSで話題のネタに「うまく“乗っかる”」ことができれば、掲載に繋がりやすくなります。
- 情報収集の習慣化:情報収集とメディア研究は一度で完結するものではなく、日常業務の一部として習慣化し、常に最新の情報にアップデートしていく姿勢が大切です。
- 広報担当者の視点:広報担当者は、社内にある情報の「編集者」としての視点を持つことが重要です。
7:成功・失敗比較
プレスリリースの成否は、その内容と書き方によって大きく分かれます。単なる「お知らせ」で終わる失敗例を避け、「ニュース」として取り上げられる成功例を目指すためのポイントを比較します。
| 比較項目 | 成功するプレスリリース(ニュースになるコツ) | 失敗するプレスリリース(避けるべき原因) |
| 情報の焦点 | 1プレスリリース1テーマで目的を絞る。最も伝えたい結論を明確にする。 | 情報が盛りだくさんすぎる。軸がブレて「誰に何を伝えたいか」が不明瞭になる。 |
| 構成/可読性 | 結論(結)から先に書く(逆三角形の構成)。見出しや箇条書きを活用し、視覚的に読みやすくする。A4サイズ1〜3枚程度にまとめる。 | 結論が文末にあり、重要なポイントに辿り着くまでが長い。体裁が整っておらず、内容を理解するのに時間がかかる。 |
| タイトル | 30文字程度に簡潔にまとめ、「数字」や「固有名詞」を盛り込み具体的にする。新規性や社会性を意識したメディアフックを入れる。 | 形容詞を多用し、誇張表現になる。タイトルが長すぎて途中で途切れる。タイトルが「〜について」など漠然としている。 |
| 内容の質 | 客観的な事実と具体的な数字やデータ(5W2H/5W3H)を用いて説得力を持たせる。なぜ開発したのか、という企業の想いやストーリー(Why)を伝える。 | 商品のスペックに終始し、カタログ情報になっている。企業の想いが伝わらない。抽象的な表現が多い。 |
| 表現 | 専門用語を避け、誰が読んでも理解できる平易な言葉で説明する。使う場合は注釈をつける。 | 専門用語や業界用語を多用する。煽り文句や「最高の」「画期的な」といった広告的な表現を使う。 |
| ビジュアル | 高解像度でインパクトのある画像を使用し、サービスの世界観や利用シーンを視覚的に伝える。図や表を挿入して直感的に分かる内容にする。 | 文字ばかりでイメージしにくい。キービジュアルに商品の白抜き画像を使用している。 |
成功への鍵は、単に「何かをした」という事実(What)を伝えるだけでなく、その裏にある「なぜ今、この情報が社会にとって重要なのか」という文脈(Why Now?)を、客観的なデータと熱意のあるストーリー性(感情トリガー)をもって伝えることにあります。これは、プレスリリースを記者へのラブレターと捉え、メディア側の視点に立って(取材や記事化しやすいよう)情報を設計する姿勢に通じます。

